エピローグ



 四月。
 あれからもう、半年が経った。あれほど熱い秋は、今までなかった。
 講堂の前に植えられた梅の前で、俺は思い出す。
(あの時……。)

 レバーを引くとバズーカの上のカバーが跳ね上がった。
「うわっ!!?」
 俺はビックリした。と言うか顔ぶつけた。
 そんな俺を横目で見ながら、鹿島は一言
「この非常時に何がしたい、女たらし?」と冷ややかに言った。

(そうだ、最悪だった。)

   そして、一階から逃げ出そうとした北原はと言うと……。
『いやあ、まさかここで張り込んでおくのが正解だとは思わなかったよ、ハハハハハ。』
 下で待ち伏せていた丸山さんと外山に取り押さえられたそうだ。
まったく、聞いた瞬間腰が抜けた。 
 北原をどうするのか聞いた所、
『協力ありがとう。一応、セフィロトの本部に収監するよ。』との事だった。

   そして、翌日すぐ鏑木とシュナウザーと四人で帰っていった。
『もう会う事はないだろう。まあ、二度とゴメンだろうがな。』
 最後の通信を受けた鹿島によると、鏑木はそう言っていたそうだ。
 で、もう一人のセフィロトメンバーの九渡も、二学期いっぱいで帰った。
『本部から出してやった学費の分だけ通っとけ、だとよ。』
 あの後学校でそうボヤいていた。
 学費、か。サウザンズ学園のは高いからなあ、私学だけに。

   そのサウザンズ学園お抱え(あれ、違ったか?)の千鶴の面々は、今も一緒の学び舎で
勉強している。(当たり前か、生徒だし。)
『まあ、セフィロトの連中がいなくなってホッとしてるよ。』
 と言ったのは深井だが、そういやあの二つは共闘してただけで仲がいい訳じゃなかったな。
『まあ、小黒に後ろから爆弾投げられなくなってホッとしてるよ。』
 と言ったのは鐘本だが、未だに俺には小黒さんが爆弾を投げる姿を想像できない。
 で、その小黒さんはと言うと……
『もう爆破できなくて寂しぃ……。石野きゅんを爆破していぃ?』
 ……無理。てか、きゅんってのはやめてくれ。鹿島が真似するから。

『石野きゅんは相変わらずアレで。』
 アレってのは何だ、まったく。鹿島め、変わらないのはお前だっつーの。
 そう言えば、破壊衝動を持て余しているのは小黒さんだけじゃない。
『俺は剣の道を究める。その尊い犠牲になれ、石野!!』
 とか言って黒部は黒部で刀振り回して追いかけて来たし、一回。一回でよかったよ。
『バイト始めたんだ、ツインタワーで。』
 とこないだ林が言っていた。ツインタワーはあれだけの戦いがあった事なんて知らない人には
欠片も感じさせずに、まだ営業しているみたいだ。
 メニアニマが壊滅したのに?と思っていたら
『うちが買い取ったのよ。どう?すごくない?』
 と塩見が教えてくれた。何があったかを隠す為と言うのが大きいようだ。
 だから、あんなに平然と営業しているのか……。

   だが、それは俺達も同じだった。
 俺達もあんな戦いなんて、なかったかのように日々を暮らし、九渡なんて、長崎さんなんて
井城なんて、初めからいなかったかのように学校に通っている。

   あの戦いは幻のよう。
 燃え上がる季節は嘘のよう。
 秋は冬に、冬は春に。そして夏が来て、今年もまた、秋が来る。
春が来れば花が咲くこの梅の木のように。
 まあ、秋が来れば強く、否応にも思い出すだろうけど、あんな事二度とない。
 なくていい。俺達は平凡な毎日でいいんだ。 

 僕らの、いや俺らの一番熱い秋も過ぎ去っていく――。





<『ボクアキ――僕らの一番熱い秋。』  完>

目次に戻る