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最終話 僕らの秋が終わり……



「まったく、上がれって言ったり降りろって言ったり、人使い荒いよね。」
 憤然たる面持ちで塩見は独り言を言った。
 つい先ほど、生体兵器撃破の報告を階段上りがてらにした所、『そのまま上がって来い』
と言う指示が来た。
 それから階段をひたすら上り、6、7階登った所で今度は『降りろ』と言う指示が下ったのだ。
「そんな事言ってる間に降りよ。」
 と鐘本が下りの階段に足をかける。1ラウンドやりあった後だが、まだまだ元気である。
「そうだな、出くわす可能性が一番高いのが俺らだ。」
 と深井が続いた。
「会ったら爆破していぃ?」
『やめてくれ』
 小黒の不吉な一言を深井と鐘本は同時ツッコミで一蹴した。


「さて、あと一仕事か……。」
 長い作戦がこれで終わる。本当に長い四年間だった。九渡にとって、この作戦は非常に
思い出深い物になった。
 サウザンズ学園に入学(潜入)して井城に付かず離れずで情報を集め、周辺を探り、その傍らで
生まれてすぐに離れた祖国の生活……。
 任務を忘れてしまいたかった事も多々あった。と言うか最近までこの偽の身分に浸り切って、
本気で忘れてしまう所だった。寸前まで行った。
 だが、今年になって事態は一変したのだ。曰く、
 長崎ら生体兵器の入学。
 千鶴の、と言うか塩見の乱入。
 石野らの関与。
 そしてこのツインタワー戦……。
「長いようで短かったな……。」
「……そうか。」溜息をつくように言う九渡の肩を鏑木はポンと叩く。
 これが終われば、本国に帰ることになる。そうなればまた戦いの日々だ。気が滅入る。
だがそれが生きる道か、と九渡がちょうど思った時、思いもよらない言葉が聞こえた。
「九渡、お前これが終わったら情報部に転属だからな。」
「え?」
 驚いて鏑木の顔を見る。
「兵士として才能ないし。今回でスパイの技術は一通り身につけただろ?」
「ま、まあ……。」
 と、言う事はこれが終われば情報を追い続け、書類に顔を埋める日々か。気が滅入る。
それが自分の生きる道か、とはあんまり思いたくなかった。
 そんな事を悶々と考えていると鏑木の通信機が鳴る。
「シュナか?」
『ああ。』
 シュナウザーは何時になく緊迫した声だった。
「どうした、何かあったか!?」
『て、TV局が来てる。民放の……。』
「何?」
 さりとて焦る話ではない。もうこちらは蹴りが付く。それに千鶴が情報をある程度操作する
だろうから、その間に逃げればいい。
『持ち場はもう離れていいか!?』
「ああ。もう別に援護は必要ないが……。」
『そうかぁ!じゃあ……。』
 通信機の向うで何かを片付ける音がする。しかも、普段から暗めなシュナウザーにしては
(明るい殺し屋も困るが)弾んだ返事をした。これは何かあるのでは……?
「おい、シュナ。持ち場を離れてどうするんだ?」
『俺の尊敬する日本一のギタリストの稲葉さんが来てるんだ!ライフルにサインしてもらう!』
 弾んだ声でえらい事を言う。
「………シュナウザー、命令変更だ。その位置から動かずにTV屋を見張っていてくれ。」
『えー?』不満そうな声が返ってくる。
「いいな!?」
『アイ・サー……ちっ。』
 通信機を切って鏑木は思う。舌打ちしたいのはこっちだ、と。


 遂に、この手にあの指輪が……。
 十二階から引っ張って来た少年の遺体。その懐から取り出した指輪を撫で回しながら女は思った。
 女の周りには誰もいない。暗い空間である。少し動いている。エレベーターのようだ。
 この日の為に、全てはこの日の為に、このガキを見張り、生体兵器を再生産し、そして、そして……。
「やった、やったぞ……。」
 指輪を握り締めながらそう呟いた時、ガクッと箱が揺れ、上昇が止まった。
 目の前の重い扉が開く。
明るい光、大穴の開いた天井と何かの死体、四人ぐらいの子供の姿が目に入る。
 全ては望んだ通り、望んだ通りなのだ……。

「ん?」

 ハア、ハア………。
 行くぞダッシュだ!天下は我等にあり!!そう叫んで走り出した黒部のせいで、僕らはかなり
本気で走ってこの階に着いた。
部屋のに至る扉が、まるで爆破されたように大穴を開けていた。
 何階ぐらいだろう、と鹿島に聞くと21階だと言った。
正確なカウントだろうから信用しよう。
 それにしても……
「なんで黒部はここで止まったんだ?」
 林が聞くと、黒部は無言で天井を指した。見上げると大きな穴が開いている。
「何の穴だ?」
 そう言えば穴田宏一なんてアナウンサーがいた。いや、関係ないけど。
「俺がここに来た時、この辺の階から光の筋が立ち上ったんだ。その原因がこの階らしいからな。」
 なるほど。ここに何かある訳か。
「おい、あれ……。」
 林の指す方を見ると、天井から射す星明りの影よりも向こう側に異形の死体が転がっていた。
「あれは……?」
「井城じゃないか?」
 いや、んな訳ないから。鹿島め、また訳の分からない事を……。
 その時、部屋の真ん中ぐらいに壁にくっついて立っている壁が割れ、女の人が出てきた。
 白衣を着ているのに、どこか黒い雰囲気をもったその人はやけに大きな宝石のついた指輪を
両手で戴く様に持っていた。
 その人は一歩前に出ると、辺りを眺め回し満足そうに肯いたあとすぐ何かに気付いたように
「ん?」と言った。

「そこの子供、一体何をしている?」
 問いかけてくる女の後ろで柱が閉まる。隠しエレベーターだったようだ。
「あ、あんたこそ……。」
 隠しエレベーターから出てきたと言う事は、この人は恐らくは……。
「あんたが、井城の死体を持ってった人か?」
 後ろから林が言う。また言おうとした事を取られた、なんて思っている場合じゃない。
もしそうだったら……。
「そう言えば、不自然な指輪も持ってるしな。」
 鹿島も後ろから口を挟む。
「あんた、何者だ?」
 腰に差した刀(さっき木刀から出てきた方の刀だ)の柄に手をかけながら
黒部が一歩前に出た。
 それに気圧されるようにジリッと女性は後退する。背中が柱につく。
「私は、メニアニマの首領北原聖……。」
「首領!?」
「お前達、千鶴の者か?それともセフィロトか?」
 違う、僕達は……。
「サウザンズ学園1年4組だ。」
 そう、それだよ林……って違う!そんな事聞かれてないし。
「何だと!?お前達があの……?」
 え!?何で驚愕!?驚く所じゃないし。
「そ、そうだ。お、俺達があの『Stage・Breakers(ステージ・ブレイカーズ)』こと 1年4組だ!」
 何だよその称号。
「俺たちに出会ったが最後、生きていた奴はいない!」
 何で鹿島まで乗ってんだよ。大体死んだ奴の方が少ないだろ。
「諸悪の根源め、この刀のサビにしてくれる……。」
 黒部が刀を少し抜き音をさせる。て言うか皆が言うなら僕だって……。
「そ、それが嫌ならおとなしく、こっちの言う事を聞け!!」
『お前、何やらしい事しようとしてるんだ?』
「するかボケェ!!!!???」
 僕の言葉に林と鹿島が同時にツッコミを入れた。しかも同じ言葉で。
 そんな風に僕は認識されているんだろうか?いやホントに。

「くっくっく……。」
「何がおかしい!?」
 突然含み笑いを始めた北原に黒部が怒鳴る。
いや、客観的におかしい事は結構あったけど。
「お前らのお目出度さかな?」
 そういった瞬間後ろの壁が開き、それに凭れていた彼女が壁の向うに出来た空間に落ち込むように入る。
『待て!!』
 黒部と林が同時に動いたが、壁が再び閉まり、追いかけられない。
「やられた……。」
 呟く林の後ろで鹿島が冷静に通信機のスイッチを入れる。
「秘剣!クエ頭落とし!!!」
 斬!
黒部が刀を横にして壁を叩き切るが、そこには空虚な暗闇しかなかった。
「エレベーターならそこの縄を切って落とす事は出来ないのか?」
 林が黒部に考えを話す。
「ダメだ、エレベーターの下んとこには空気が溜まっていて、そのお陰で箱が落ちても、
 中の人間は大丈夫だって何かで読んだ事がある!!」
 通信機から口を離し、鹿島が二人にストップをかける。
 この間に、この間に逃げられてしまう……。
「じゃあ、こっから下に降りて……。」
「ダメだ、危険すぎる。」
「はい、真ん中ぐらいの柱から……。え?その階にはない?」
「多分ここが終点なんだ。」
「そうか……。」
 皆の声が交錯する中、僕は一人だ。一人、何も出来ない。
何時だってそうだ。生体兵器に襲われた時も、何も出来ない、何も出来なかった。
 何かしなくちゃ。だが、何をすればいい?何が出来る?
 ふとそんな時、ふと目に留まったのが向うに転がっている生体兵器の死体だった。
 右腕の辺りにバズーカ砲みたいなのが落ちている。
それを見た瞬間、さっきの黒部の言葉が甦る。

『俺がここに来た時、この辺の階から光の筋が立ち上ったんだ。その原因がこの階らしいからな。』 

 迷っている暇はない。僕は生体兵器の遺体に駆け寄ると、そのバズーカ砲を手に取った。
 持ち上げる、重い。両手で抱え上げ、ヨタヨタとエレベーターの前に運ぶ。
「石野…一体何を……?」
 鹿島が聞いてくるが、答えている暇はない。
 バズーカを傾け、下に下がって行っているだろう箱に砲口を向ける。
 右側に大きなレバーがあった。これだ、これで発射するんだ。
 それに手をかける。これを引けば、北原とか言うあの女を止められる。
 だが――
(この止めるって事は、殺すって事じゃないか……。)
 どうする?これを引けば、もう日常には帰れない世界に僕は行く事になってしまう。
 人を殺す。高校生が。ニュースで報道。ダメだ。ダメか?ダメでいいのか?
 殺したのはどっちだ?女を殺すのは流儀に外れる?それでもやるさ。それでもやれる?
 どうすればいい?ならどうすれば?あいつは何をしようと?北原は?指輪?
 大量破壊兵器?起動?死ぬ?多くが死ぬ?僕も?お前も?あいつも、死ぬ?
 井城の様に?井城?そうだ、井城。殺した。長崎が。でも主犯は――北原。
(構うもんか。)
 そうだ。
(構うもんか、間違っても、間違ったとしても。)
 そうだ、僕……ボク……ぼく…は
(完璧じゃない。完全じゃない。だから正しい答えは知らない。正しくなんてない。
 それがどうした?でも答えは出せる。探し出せる。なあ、そうだろ?そうだよ。
   諦めなければ大丈夫。諦めなければ。諦めるもんか。諦める方が、間違ってる……。)
 右腕でレバーを握り、
(そうだ、ぼく達は、ボク達は、僕達は……俺達は、諦めない!)
 それを俺はこちら側へ思いっきり――

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