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第十九話 僕らとツインタワーの秋FAINAL



『小賢しい、お前一人で何が出来る?』
 刀に手をかける黒部を、『生体兵器・長崎麻衣』は笑う。
 恐らくは、あの恐怖心を煽る目(ビビらせアイとでも呼ぶか)に絶対の自信を持っているの
だろう。
「………“何が出来る”か、ではなく俺は“何をするのか”を求める。」
 そう呟くように言うと、黒部はフッと息を吐き、柄を握る右腕に力を込める。
「……魚捌き式抜刀術ッ!!」
 ホントに『魚捌き式抜刀術』とやらを使う気らしい。そういや塩見が見たがってな……。
ここにいりゃ見れたのに……。あー、ビデオを回したい……。

 いやいや、そんな事より集中せねば。黒部が危なくなったら援護するのは僕なのだから。
 黒部はああ言ったまま動かない。長崎を睨みつけたまま微動だにしない。
 ……ジレったい。
『シャアッ!!』
 ジレッたかったのはあちらも同じだったようだ。長崎が黒部に飛び掛る。
 その瞬間、一瞬だが黒部の目が光った。
「秘剣『鯵三枚下ろし』!!!」
『グワッ!!?』
 黒部の声と共に刀が抜き放たれ、三つの光が見えたかと思うと、長崎の体が後ろに大きく
吹き飛んでいた。彼女(?)の胸部には三つの深い切り傷がついている。
『な、何だ今のは……?』
 仰向けに上体を起こし、傷を押えて驚愕する長崎に対し、黒部は再び刀を構える。
「秘剣……」
 バッと黒部が床を蹴り、空中で一回転し落下する。
『クッ……!!』
 長崎が応戦しようと起き上がった瞬間、その頭上で黒部が刀を抜き放ち、上段から 振り下ろした。
「……『鯨一刀両断』!!!」
『ギャアッッッッツツッ!!?』
 断末魔の叫びを上げて、長崎麻衣は体を両断され倒れた。
「……やった、のか?」
 僕が聞くと黒部は長崎の遺体に背を向け、
「恐らくは、な。」
 と言い刀の刃を見た。
つられて僕も見ると凄まじく刃こぼれしている。
いや、刃こぼれじゃない。刃の部分が腐ったようになって劣化しているのだ。
「これはもう切れないな。」
 そう言うと黒部は刀を床に刺した。
 刃先は辛うじて生きていたのか、床に簡単に突き刺さった。
これは丸っきり……
「……墓標みたいだ。」
 僕がそう呟くのと同時に突然鹿島が叫ぶ。
「危ない!!」
 振り返った僕の眼に飛び込んできたのは、体の真ん中がぱっくり割れた『生体兵器・ 長崎麻衣』が黒部の背中に爪をつきたてようとしている所だった。
「ッ!!」
 すんでで飛び退り、黒部はそれをかわす。僕も黒部とから少し遅れて後ろに下がる。
「まだ生きていたのか……。」
『わたしは特別しぶといんでね……。』
 体が真っ二つになったと言うのは見間違いだったようだ。入りが浅かったのか、背中の部分で
辛うじて繋がっている。
「油断したか……。」
『そのお陰で、やっとお前達を殺す事が出来る。何故なら……』
 長崎はビッと長い爪で僕を指す。
『残っている武器がさっきからそこで、わたしの瞳に慄いて震えている情けない男の銃と……』
 クルリと向き直り今度は黒部の方を指す。
『お前のその背の木刀だけだからだ。もっとも、そんな木の棒ではわたしは倒せないがな……。』
 そして彼女(?)は小馬鹿にしたように笑い、
『いくらお前がわたしの瞳に負けないほどの力を持っていても、その木の棒ではどうしようも
 あるまい……。』
 確かにその通りだ。
 こちらの主戦力とも言うべき林は不意打ちを喰らってダウン。
鹿島はそれに付いてなきゃならないし、たとえ林を見捨てても、その銃の残弾数はゼロだ。
僕の銃を渡そうにも、その間には長崎がいる。とても渡しにいけない。
 頼みの綱の黒部の手には木刀だけ。
さっきまで使ってた刀からは、長崎の方が距離が近い。取りに行く時にやられる。
 黒部に銃を渡せればいいが、僕は『ビビらせ目』のせいで動けない。
 情けない奴、なんて思うかもしれないけれど、蛇に睨まれた蛙の様にどうしても動けない。

「木の棒、か……。」
 そう呟くと黒部は背中から木刀を抜いた。
 長崎は半分に割れた顔に余裕の笑みを浮かべた。
「なんならこれで、試してみるか?」
 そう言うと黒部は一歩前に出て下段の構えを取る。
『面白い冗談だな!いいだろう、やって見ろ!!』
 そう嘲る様に言うと、長崎は黒部に右手を振り上げ飛び掛った。
 その刹那――
「ハアァッッ!!」
 黒部の気合の声と共に、何と木刀の表面が粉々に砕け落ち、鋼色の刀身が光を受けて輝く。
 それを構え、長崎に向かって突進した。
『なっ!!?』
 長崎の動きが半分の顔で驚愕の表情を浮かべたまま、一瞬止まった。
 その隙に下段から刀を振り上げ、長崎の腰の辺りに当て上に弾き飛ばす。
それを追って黒部もジャンプした。
「魚捌き抜刀術奥義――」
 空中で刀の刃を返すと、首筋に刃を当て体重を乗せ落下した。
「『鮟鱇ぶちきらる』!!!!!!!!」
 斬ッ!!
 プロレスのギロチンドロップのような格好で、長崎の体が床に叩きつけられる。
ただプロレス技と違うのは、そのギロチンは本当に首を切り落とすという所だ。
 それにしても、鮟鱇って……。
「鮟鱇の骨まで凍ててぶちきらる……加藤楸邨。」
 そう言いながら黒部はこちらを向くと、何処からか紙を取り出し刃に付いたグロい色の
体液を拭った。
「やったな……。」
 鹿島が感慨深げに呟いた。
 これで一応、井城の敵は取った形に……って、そうだ井城の存在を忘れていた。
 慌てて辺りを見回すが、何処にも死体が見当たらない。
「鹿島、井城の死体は!?」
「え……あー、忘れてた!」
 慌てて辺りを見回す鹿島を見て、黒部が僕に聞く。
「井城は死んだのか?」
「ああ……。長崎に殺されてな……。」
「惚れた女に殺されたわけか……。」
 だが長崎に愛はなかった。結局あいつは人の心なんて持っていなかったんだ。
 人の形はしていても、結局それは形でしかなかったのだ。
現に、今倒れている彼女の体はどうだ?こんなに人から遠い姿をしているじゃないか。
 これが彼女の本性だったんだろう。
クラスメイトだったモノの遺骸を見て、僕はそう思った。
「そうだ、鏑木さんに通信……」
「ああ。」
 鹿島がポケットからブリーフィングの時に渡された小型通信機を出す。
「こちら鹿島、応答願います。」
『ああ、何かあったか?』
「えー、生体兵器長崎麻衣と遭遇、撃破。黒部が合流、井城が死亡……」
『井城が?』
「…はい。」
 通信機からの声は僕らにも聞こえている。と、言うか林の負傷を報告しろよ。
『井城の死体は?』
「いえ、その、えー、いつの間にか…消えて……しまって…。」
 鹿島の言葉に鏑木が声を荒げる。
『何だと!?じゃあ指輪は!?』
「な、ないです。」
『今、何階だ?』
「え?ああ、十二階ですけど……。」
『よし、じゃあそのまま上に急いで上がって来い。我々と千鶴は降りる。
 死体泥棒はそう遠くには行っていない筈だ。』
「分かりました!」
『あと、生体兵器の事だがよくやった。先ほど千鶴からも撃破の報告があった。
 我々も……一体倒した。これで恐らくメニアニマには生体兵器はいないだろう。』
「あ、はい……。」
『じゃあな。』
 ブツッと通信が切れる。鹿島は顔を上げると、
「急いで上だとさ。」
「聞こえてた。」
「行くぞ。」
 そう言って黒部が歩き出す。それを鹿島が手で制した。
「林はどうする?」
 僕と黒部は顔を見合わせた。
「もう、起きてるさ……。」
 見ると頭を振り振り林が立ち上がり始めていた。
「大分辛そうだが、大丈夫か?」
「ああ、まだちょっと痛いけど。」
 じゃあ行くか、と黒部が先頭に立つ。それに僕は慌ててその後を追う。
後ろに鹿島と林がついてくる。ほぼ一列になって階段を上がる。
 さあ、これで最後だ、多分。

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