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第十八話 僕らとツインタワーの秋E



『死ね!!』
 隈元の渾身の一撃が鏑木に振り下ろされる――それを鏑木は大きく開いた隈元の又の間を
滑ってかわした。

 バゴォォ!!

  鏑木の代わりに壁が割れ、夜空が覗く。
(ビルの外壁を砕くほどか……。よけられてよかった……。)
 そう思って鏑木は胸を撫で下ろすと、懐から手榴弾を取り出した。
 それは『対生体兵器用』を示すAgの文字のない普通の手榴弾だった。

(ビルの外壁を砕く一撃とは流石は俺様だ……。)
 隈元は外した事よりもその事に関心が向いていた。
昔も相当の肉体派だった彼だが、今のこの力はそんな物など比べ物にならない。
しかも、弾丸を喰らっても少しも痛みを感じない。
素晴らしい、素晴らしい体だ。
これなら、あの生意気な九渡とか言うガキが銀の弾丸を使ってきても……。
 と、そこで戦闘中であることを思い出す。奴らは後ろにいる。
 振り返る前、視界に割れた壁から覗く夜空が入った。
 向こうの方のビルの屋上で何か光った気がした。
(何だ………?)
 そう思い夜空を見上げた。
どうせ後ろから撃たれたって平気だ。なんせ俺にはこの不死身の体がある。

「心配ないからねー君の勇気が」
 シュナウザーはツインタワーの隣500mの所に建つビルの屋上にいた。
 逃げる敵を撃つ足止めの係りに彼は回されているのだ。
 閑職のように思われるかもしれないが、そうではない。
寧ろスナイパーを自認する彼にとっては天職である。
「誰かに とどく 明日はきっとある」
 突然轟音がして、ツインタワーの壁が破れた。
さっき光の柱が立ち上った時も驚いたが、その壁をスコープで覗いてさらに驚いた。
 そこにはあの隈元がいたのだ。と言う事は、相手は鏑木かもしれない。
「どんなに困難で くじけそうでも」
(もし隈元を見かけたら、遠慮なく撃つように――)
 鏑木の言葉が頭に甦り、すぐさま狙いをつける。
「信じることさ 必ず最後に愛は勝つ」
 スコープの中の隈元がこちらを見た。気付かれたか?いや、大丈夫だ。
  「信じることさ必ず最後に――」
 引き金に指をかける。そう、信じる事だ。いつもそうしてきた事だ。そうだろ?
「――愛は勝つ」
 引き金をを引き絞る。『Ag』の刻印のない狙撃用の長い弾丸が、晩秋の夜空を飛んだ。

 前から何かが来る。
 そう思った次の瞬間、隈元の胸に何かが突き刺さった。
(狙撃か?だが、生憎こんな物では……)
 ボトッ
 何かが床に落ちた。見ると右腕だった。異形の腕――自分の物だ。
 グシャリ
 背中から胸に向かってなにかが刺さった感覚。大きい。だが、痛くはない。
「哀れだな。」
 鏑木の声が耳元でする。ではこの貫通したのはこいつの腕か?
「お前は痛覚を消されていた。だから銀の弾を喰らっても平気だったのだ。
 俺もそれに途中まで気付かなかったがな。」
 そう言って鏑木は腕を引き抜く。手袋が血肉に塗れていた。
『それがどうした?そんなパンチが刺さっても、俺何とも――』

   バゴォォン

 爆発に阻まれ、彼は最後までセリフを言う事が出来なかった。
自分の体内で起こった爆発の為に……。
「鏑木……。」
 九渡がこちらに歩いてくる。
「どういう事だ?あんたが奴の体に入れたのは、只の手榴弾だろ?」
 鏑木は振り返らずに答える。
「体の組成は崩壊していた。あれほどガタガタなら、普通の爆薬でいい。
 だが仕掛けるチャンスがなかった。まあシュナウザーと……。」
 そこで九渡に向き直った。
「ずっと如意珠を撃ち続けた、お前のお陰だ。」
「連繋の勝利だな。」
 ああ、仲間がいると気が楽でいい、そう言うと鏑木は憐れむように四散した隈元の肉塊を
見下ろした。
 痛覚をとられたという事は、つまり突撃兵に使おうとしたと言う事だ。
痛みがなければ恐れる事はない。失っても惜しくなかったのだろう。
(お前に本当の仲間はいたのか……?)
 鏑木は静かに宿敵だったものに背を向けた。

 数分前十二階……。

本番おたのしみはこれからだ。』
 ザリッ、ザッリッと一歩一歩こちらに長崎麻衣――だった物が近づいてくる。
 最大の戦力とも言うべき林が気を失い、鹿島の銃は弾切れ寸前。
 僕の手にはまだ五発弾が残った銃があるけれど……。
(ダメだ、撃てない……。)
 足がすくんでとても立っていられない。鹿島も同じみたいだ。何かがおかしい。
なんだか、あの目がこちらの戦意を削っているように思えた。
 いや、現にそうかもしれない。何せ向うは変なフェロモンで井城を数ヶ月誑し込んでいたのだから。
そういった物質も恐らく作る事が出来るだろう。
『どうした?来ないのか?』そう言いながらジリジリこちらに歩いてくる。
きっと向かってくるなんて、欠片も思っていないのだろう。
『冥土の土産に教えてやろう。この私の瞳には相手の視覚から脳に直接働きかけ、
 戦意を削る力がある。もっとも幾度となく戦いを潜り抜けてきたような
 戦士ならば、それで怯む事はないがな……。』
 お前らは素人だからビビるのだ、とでも言いたげな口調だった。
事実そうなんだが、悔しい。本当に悔しい。
 嫌な奴とは言え、同じ学校の知り合いを目の前で殺されたと言うのに、何も出来ないなんて……。

  『今楽にしてやろう……。』
 生体兵器がこちらにあと数歩でつく、ダメだやられる――そう思った次の瞬間

ズゴォォオオオォォォォォ!!!

 突然の轟音と共にタワーが揺れた。
『ぬわぁ!!?』
 突然の揺れにさしもの生体兵器も足を取られバランスを崩した。
視線が外れ、一瞬体が楽になる。
 その瞬間を鹿島は逃さず――

ダムッ!ダムッ!ダムッ!!

 全弾を長崎に叩き込んだ。
(これは決まったか……?)
 バランスを崩したのと、撃たれた衝撃で床に倒れ伏した長崎。
鹿島もそれを見つめながら、やったと思ったに違いない。
 ――だが

『よくもやってくれたな……。』
「まだ……生きていたか…。」
 そう呟き、鹿島は歯噛みした。
銃弾もない、戦意も削られている、援軍のあても――ない。
 絶望的な状況だった。
『殺す!!』
 長崎がそう叫び、倒れた林の傍らに座り込んだ鹿島に踊りかかった――

タムッ!!

 その瞬間突然何かが飛んできて鹿島と長崎の間を隔てる。
これは……庖丁?
『何者だ!?』
 長崎の声に答えるかのように僕らが入ってきた入り口から一人の男が現れた。
 僕らのよく知っている木刀を背負ったシルエット。それは、それは――
「危ない所だったな……。どうだ?もう一本刀は必要か?」
「黒部!!」
 黒部北斗はついとこちらに顔を向けると、すぐ長崎麻衣に向き直り、腰の『Ag』と 柄頭に
刻印された刀に手をかけた。

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