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  七 わたしの普通が自由を生かす その1


 一学期の中間考査を間近に控えたある日の放課後、優歌はエミリからの連絡を受けて、自由創作部の部室に赴いた。
 部室には、露子や神崎といったいつもの面々に加え、中村美咲の姿もあった。
「今日、みんなに集まってもらったのは他でもないわ」
 いつぞやの捜査会議の時のように、部室中の椅子が車座に並べられている。部員全員が揃ったことを確認すると、ソファーの真ん中に腰掛けたエミリが口を開いた。
「今年の大鷺祭について、話し合おうと思うの」
 大鷺祭とは、ここ大鷺高校で年に一度催される学校行事で、いわゆる文化祭である。期間中は、生徒も教職員もお祭モード一色に染まるという、正に一大イベントであった。
「もうそんな時期か」
 回転椅子に座る神崎が相槌を打つ。
「早いよね」
「うかうかしてらんねえな」
「今年は参加するか……」
 エミリの右隣に座るあゆみも、神崎の左隣でパイプ椅子に掛けた松代と美咲もうなずいている。
「今年いつだったっけ、日にち?」
 言いながら露子は、左隣のエミリに目をやる。無論、彼女は今全裸である。
「十月の一日、二日ね」
「遠っ!」
 唯一の一年生である優歌が、神崎の右隣で頓狂な声を上げた。
「まだ五月ですよ。五ヶ月もあるじゃないですか……」
「甘いわね優歌ちゃん。カレーの後のチャイより甘いわ」
 よく分からないたとえを持ち出しながら、エミリは首を横に振った。
「来月の末には場所決めがあるの。それまでに、何をやるのか計画を練っておかないと」
「いや、でも六月の末でしょ?」
「ますます甘いわね優歌ちゃん。メイプルシロップを直に舐めた時より甘いわ」
 やっぱりよく分からないたとえを口にして、エミリはかぶりを振る。
「既に戦いは始まっていてよ? それに周りを見て御覧なさいな」
 言われて優歌は、集った自由創作部の面々の顔を見回す。
「この濃いメンバーの出す意見が、直前でまとまると思って?」
「無理ですね」
 自信を持って即答した。
「でしょう? だから今から話し合う必要があるの」
 うなずいた優歌に、エミリは満足げな笑みを向けた。
「それで、今年はどうするつもりだ?」
「去年と一緒でいいんじゃね?」
 神崎の問いかけに、松代が口を挟む。
「マッツ先輩、去年は何を?」
「ああ。演劇部が講堂で劇をやってる間に」
「我々パソコン研究会が、自作ゲームの試遊会をやっている教室の中」
「ボクら文芸部が部誌を売っているカウンターの横で」
「あたしが描いたポストカードを売ってたってわけ」
「バッラバラじゃないですか!」
 先輩四人の見事な割りゼリフに、優歌は目を剥いた。
「では、今年もその方向で」
「終わりですか!?」
 早くもまとめに入った。集まった意味はあったのだろうか。
「ちょい待ち」
 解散を制止する声がもう一つ上がった。
 露子であった。いつになく真面目な表情に見える。
「本当にそれでいいわけ? あたしらはさあ、学校の予算の都合とは言え、一個のクラブなわけじゃん? やってることは確かにバラバラよ? でも、大鷺祭ぐらいまとまってみない?」
「なるほど。一理あるわ」
「部長にしては珍しい、内容のある意見だね」
「あゆみちゃん……」
 無邪気に放たれた言葉に真を突かれたが、めげずに露子は続ける。
「だからさ! 女子は全員全裸で……」
「却下」
 露子の発言を、エミリは食い気味に切り捨てた。
「どうして!?」
「それでは、全員美術部になっただけではなくて?」
「それ以前に全裸はないですよね……」
 後輩二人のツッコミを受けて、露子はのそのそとソファーの裏に座り込む。
「しかし、一つのクラブとしてまとまった展示を行なう、という発想はありだと思うが」
「そうでしょ!」
 神崎の発言に、一瞬で立ち直ると、露子は無駄に軽快な動きでソファーを飛び越え、彼に抱きつこうとした。それを右手でいなしながら、神崎は続ける。
「もっとも、パソコン研究会として展示したいゲームは既に形になりつつある。今年もバラバラの方向で、今まで進めていたからな。お蔵入りはさせたくない、という気持ちもあるのだが……」
「何かこう、みんなでゲームコーナーみたいなんをやったらいいんじゃね? パソコンに限らずさ。例えばあゆみちゃんとかだったら、推理ゲームみたいなん企画して」
 神崎の言葉を受けた松代の提案に、あゆみはうなずいた。
「いいアイデアだね、マッツくん。十二人の名探偵を集めて、推理勝負するのがボクの夢だったんだ……」
「十二人もいるんですか、名探偵って……」
 そんなバーゲンセール状態なのか、と優歌は少し慄く。
「でも、文芸部としては部誌をやりたいのよね。展示も素適だけれど、わたし達の本質は、やっぱり書くことなのよ」
 エミリは眉根を寄せる。
「ただ、部誌も二人じゃ誌面が埋まらないかもしれないし……」
 そう言いながら、エミリはちらちら優歌と美咲に視線を送ってくる。
「わたしあんまり文章は……」
「私は一向に構わんぞ」
 逡巡する優歌とは対照的に、美咲は乗り気のようであった。
「何せ私には長編バトル物のアイデアをたくさん書き留めたノートがある」
「あら、数年後出てきて悶絶するための準備を整えているのね。偉いわ」
「そう褒めるな。当然のことだ」
 異世界の剣士は皮肉を理解しないらしい。さすがのエミリも肩をすくめた。
「あまり長い物はダメだよ? とりあえず、美咲くんは部誌に参加でいいけど」
「じゃあ、優歌ちゃんはどうすんだ?」
 松代の問いに答えたのは露子であった。
「最悪売り子したらいいじゃない、全裸で」
「全裸は拒否しますが、売り子ならさせていただきます」
 きっぱりと優歌は言い切った。
「ちょ、全裸が最重要項目なのに! 学習しなさいよ!」
「部長こそ学習してください!」
「ダメよ、売り子だけなんて」
 エミリが間に入ってきた。
「作品を出さないと。ここは創作をするためのクラブではなくて?」
「うぐっ……」
 痛いところをつかれた、という顔をしたのは優歌ではなく松代であった。
「エミリさん、それを言うと、去年は俺も出してねえんだけど……」
「マッツくんはいいのよ。あなたはワンゲル部の本分として、着ぐるみに入って宣伝してくれたじゃない」
「え? あ、そうッスか! アレでよかったんスね!」
「そうよ。とてもかわいらしかったわ。外面は」
 着ぐるみはワンゲル部的活動なのだろうか。多分、激しく間違っているが、さすがに優歌も言い出せなかった。





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