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第一話 ある秋の日に



 夏休みが明けて一番、僕はこんな噂を聞いた。
 その出所は、同じクラスの林時緒からだった。
『井城が、夏休みから付き合いだしたようだ。』
 井城、と言うのはこの学年でも結構有名なナルシスト&お坊ちゃまだ。
 何でも父親がどこかの組織のお偉いさんらしい。
 本人とは去年、中3のときに同じクラスだったが、少々鼻持ちならない奴ではあった。
 だから、付き合うような物好きな女がいるとも思えなかった。
「金目当てじゃないか?」
 僕の隣の席に座った――と言っても、机に腰掛けているのだが――鹿島弘樹が
妙な事を言い出す。
 既に、始業のチャイムは鳴っていた。先生はまだ入ってこない。
「高校生で?」
 僕が聞き返すと、鹿島は真顔で
「可能性はある。」と言った。
 ないって、おい!
「いくら金目当てでも、そんな人生棒に振るような事はしないと思うよ……。」
 と、僕の前の席に座っている黒部北斗が言う。
 井城君、滅茶苦茶言われてます。
 確かに、そう言われても仕方のないような奴だけど。
「で、お前はどう思う石野?」
 鹿島が僕――石野純二に振ってきた。
「うーん、自分の目で見ない事には……。」
 そこでパンッと膝を叩いた者がいた。
この噂を僕達に伝えてきた林時緒である。
「じゃあ、今日の帰り見てみようぜ。」
「帰り?」
 僕が聞くと林は大きく肯いた。
「こんな噂が出てきたのは、あいつが女子と帰っているのを、先輩が見たからなんだ。」
 それならば、という事になった時、担任の先生が入ってきたので僕たちは
席に着いた。

 放課後。
 今日は始業式だけなので、まだ10時頃だ。
 僕と鹿島と黒部と林は、井城の教室――あいつは違うクラスだ――に行こうと
集まっていた。
「ところで」
 鹿島が口を開く。
「相手は誰なんだ?」
「あ。」
「そう言えば。」
 基本的なことを聞くのを忘れていた。
「林、誰なんだよ?」
 悪い言い忘れてた、と林が言い、口を開きかけたその時、教室の扉が開きなんと
井城が入ってきた。
 井城は、教室のあちこちに固まって話している女子達の間を抜け、
一人の少女の前に来ると、親しそうに一言二言交し一緒に歩いていってしまった。
 僕と鹿島と、それから黒部は顔を見合わせた。
 その横で林が言う。
「ほらあの子だ、長崎さん。」

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