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第十三話 僕らとツインタワーの秋@



 ツインタワー前には六時四十五分に着いた。
 約束の時間までにはあと十五分ある。
 指輪も忘れていない。ちゃんとこの箱の中に入れてきた。
 タワーのショウウィンドウにおれの姿が映る。
 大丈夫だ。何処から見てもいつも通り決まっている。当たり前か。
(早く七時になれ……。)
 最近は彼女に会うのが楽しみでしょうがない。
これは彼女もおれを求めていると言う事だろう。
   彼――井城凛は気付いていなかった。
 その感情が楽しみから来るものではないと言う事を。
 彼は彼女を、いや彼女から発せられる『イリュージョニック・フェロモン』を求めて いるのだ。
  彼は既に、その媚薬の中毒になっていたのである。

「やれやれ、長崎麻衣が生体兵器とはな……。」
 空を行くヘリの中で深井挑介は溜息を吐いた。
「ホントに意外だったわね。ま、常識的に考えれば肯けるのかも。」
 塩見は自分達の調査に落ち度があったとは考えにくいと思っていた。
「さて、今日はこれが最終決戦になる事を祈るのみだ。」
 鐘本はそう言うと拳を固めた。同時に自分も含めた誰かの命日になるのも嫌だとも思っていた。
 特に味方の爆風で死にたくはない。
「じゃぁ、もぅ爆弾投げられへんのぉ?」
 小黒智恵美がいつもの少し舌足らずな声で物騒な事を言い出す。
 彼女とて日常的に爆破を行っているわけではないのだ。
「楽しかったのにぃ。」
 もう二度と、この小黒とは一緒に戦いたくないと深井は改めて思った。
 ツインタワーの近くには都合よく『千鶴』の息がかかった大学のキャンパスがある。
そこにヘリを停める手はずになっていた。
「石野達はどうするつもりだ?」
「参加させるらしいよ、カブぴょんは。」
「戦力になるのか?」
 武器まで与えて、本当に彼らは信用できるのだろうか?第一セフィロト自体怪しいし。
我々はセフィロトに嵌められているんじゃないだろうか?深井はそんな気分だった。
「大丈夫よ。」
 何度かこの懸念を彼は塩見に伝えたが、彼女は決まってこう言うのだ。
「うちの学校は、試験に受かっただけじゃ入れないんだから。」
 それがどうしたのだろうか、と深井は思う。大体、入試の後に何かさせられる訳でもないのに、
何故そんな事が言えるんだろうか?
 だがこれ以上言っても、塩見は取り合ってくれない。今彼女は今まで参謀役だった深井の言う事
よりも、 鏑木の言う事を信用するようになってきているのだ。
このままではセフィロトに乗っ取られるかも知れない。
「到着したわ。」
 ヘリが下降を始めた。下にはセフィロトのものであろうヘリが停まっていた。
 自体は人の気持ちなどとは関係なしに急転する。そして、それを人は受け入れざるを得ない。
 そんなものか、と同年代の少年少女よりも重い人生を歩んできた深井は溜息をついた。

 風が震えている、そんな気がした。
 胸騒ぎと言ってもいい。不穏な空気……。
(何なんだ、この感覚は?)
 黒部北斗は剣を傍らに置き、夕焼けで赤みがかった空を見上げた。
(何かが起きている、俺の知らない所で俺に関わりある何かが……。)
 彼は再び木刀を手に取ると、駅に向かって駆け出した。
 何処に行くのか分からない。それは心の奥が、本能とも言うべき部分が教えてくれる だろう。
 兎に角、今は急ぐのみだ。
 誰かが俺の剣を必要とするなら、俺はそれに答えなくてはならない。
 それが、それが――
(――剣豪というものだ。)

 大学のキャンパスに停まる三機のヘリ。
 セフィロトと千鶴と、千鶴が到着して程なく現れた四天堂の文字の入ったヘリ。
「これでほぼ全員か。黒部はどうした?」
 鏑木は自分の目の前に立つ少年少女らをぐるりと見回した。
まあ一人二十代後半のイタリア人もいるのだが。
「さあ……。修行とか言って……。」
「残念ね、魚捌き式抜刀術が見られると思ったのに。」
 塩見は口を尖らせた。
「そうか。ならば仕方ない。」
 仕方ないのなら来たくなかった、と林がボソリと呟いた。
「侵入経路を説明する。」
 そう言って鏑木は、ツインタワーの見取り図を開いた。
「このタワーには8方向に入り口がある。その内東、南、西の三方向から潜入する事にする。
 では突入チームを分けたいと思うのだが……。」
 そう言って鏑木はまた全員の顔を見回した。
「石野、林、鹿島は南から。千鶴は東、我々は西でいいか?」
 その決定に深井が異を唱える。
「南からの潜入チームが素人ばかりだが……。」
「いや、大丈夫だ。」鏑木は断言するように言う。
「素人と言っても、彼らはそれなりに戦えるようだし、君ら千鶴も、元のチームのままの方が、
 例えば我々のような外国のわけの分からない部隊と組むよりも信頼できる人間との方がいいのではないのか?」
 見透かされている、と深井は内心焦燥した。だが直に
「ああ、その方が背中の心配をしなくていい。」と切り返した。
 彼らの間に沈黙と共に険悪なムードと緊張が流れる。
 そんな中、パンッと手を叩く者がいた。塩見である。
「はい、今は協力関係なんだから、喧嘩しない。」
「その通りだ。まあ、こちらにはそんな気など毛頭ないがな。」
 鏑木が応じ、一同の緊張がほぐれる。だが、深井だけはやや憮然としたままだったが。
「では、潜入開始だ。九渡?」
 鏑木に声をかけられた九渡が肯き、一歩前に出た。
「『主よ、我等が苦難の只中でその名を呼ぶ時は、我等にその長き腕を差し伸べ給え、守り給え。
  我等が中の全ての命が損なわれず、再びこの地に集わん事を約束し給え。
  この小さき祈りをキリストの御名を通して御前に捧ぐ………。』なんてな。」
 『アーメン』を言わず、彼は祈りを終えた。
 命損なわず、本当にそうであって欲しいと石野は思った。

「待った?」
「今来たとこだよ。」
 いつも通りの挨拶を交わし、井城と長崎の二人は笑いあった。
「ここの屋上にすごいスポットがあるんだ。リン、行ってみない?」
「ああ。」
 井城は軽く長崎の言葉に応ずると、手を取り合ってツインタワーの中に入った。
 屋上のスポット、夜景か何かだろうか?そうならそこで渡すのもロマンチックだな、 などと考えながら………。

 彼は、運命と言う名の蜘蛛が張り巡らした逃れられない糸にかかった形となった事を、まだ知らない……。

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