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第十五話 僕らとツインタワーの秋B



 鏑木らが隈元と出くわした時よりおよそ三十分前、六階の化粧品などが置いてあるフロアで、
千鶴の面々は……
「塩見ー?」
 自分たちの総帥とはぐれていた。
「おかしいなあ、何処に行ったんだ?」
 やれやれという風に鐘本は頭を掻く。
「さっきまでぇ、そこにぃたのにぃ。」
 心なしか小黒も心配そうだ。
 そんな二人の横で、深井は明らかに不機嫌だった。
もう自分達は総帥に見限られたのかもしれない、そんな思いが彼の心を苛つかせるのだ。
 普段なら、この場面では放っておく。だが、ここは敵地だ。
拉致された可能性もある。放ってはおけない。
(まさか、セフィロトの方に行ったのか……?)
しかも今はこんな不安もあるのだ。深井は普段は沈着冷静で通っていたが、今はそうはいかない。
この後敵になるかもしれない連中と、別の敵の本拠地で共闘しているのである。
文字通り、背中が安心できない状態だ。
「ぁ!ぃたぁ!!」
 小黒の指した方を見ると、そこには塩見がこちらに向かって走ってきていた。
「ごめんごめん」
 そう謝る彼女は右手にツインタワーのシルエットとロゴの描かれたビニール袋を下げていた。 (作戦中に買い物だと………!?)
 深井の頬を冷や汗が伝う。ありえない。やはり何も知らないお嬢様なのか?
この作戦に連れてくるべきではなかったのではないか?
「………っつ、まあ、今度から気をつけてくれ。作戦中だ。」
 吐き捨てるように言うと深井は三人を促し歩き始めた。

 同じ頃、十二階……。
「この上……?」
 関係者以外立ち入り禁止のプレートがかかった扉の前で、井城は後ろにいる長崎に訊ねた。
「うん、さあ……。」
 長崎に押されるような形で彼はドアに手をかけた。
「待て!!」
 突然後ろから声がかかった。振り向くとそこには知った顔が三つ。
クラスの男子が、何故ここに?

 ふー、どうやら間に合ったみたいだ。
さっき十二階で店員や警備員を押しのけてまで入った甲斐があった。
「石野!?」
 井城が吃驚したような顔でこちらを見た。
 そりゃ驚くだろう。誰も知らないと思っていたデートが3人(いや、もっとか。)もの人間
にばれていて、尚且つその三人がこちらに銃を向けているのだから。
「井城、助けに来たぞ!」
 ホントは助けたくないんだけれど。まあ、結果的にはそうするのだしそう言った。
「一体これはどういう事なんだ!?」
 井城が叫ぶ。あー、ヤバイって、そんなでかい声じゃ警備員来るって。
「いいか、よく聞け!そこにいる長崎さんは……」
 林がそう言いかけた刹那、長崎の右腕が鋭く井城の首筋に振り下ろされた。
 ゴメリッと嫌な音がし、井城がうつ伏せに倒れこむ。首の骨が、折れた……?
「……初めっからこうすればよかった。」
 長崎が井城の骸を見下ろしながら髪をかきあげた。罪悪感なんて、微塵も感じていないのだろう。
「あんた達もさ、こいつには夢を見させたままで死なせてあげようと思わなかったの?」
 続けて長崎は僕らにこう言った。何て人間だ。いや、人間じゃない。こいつは……。
「……生体兵器、か。」
「そこまで知ってるのね。やっぱりあんた達は千鶴の手の者だったのね。」
「違う。」
 確かに手を組んでるが、そうじゃない。
「じゃあ何でここに来たワケ?こいつを助ける為?」
 そう言って彼女は、いや『生体兵器・長崎麻衣』は井城の死体の頭を爪先でつつく。
「馬鹿げてるわね。こいつ学校で鼻つまみ者じゃない。何か助けて利点あんの?」
 それはない、ないが問題じゃない。そこじゃない、そこじゃないんだ……。
 僕は自分の心に、今までにない怒りが湧き上がってくるのを感じた。
それは『女たらし』なんて言われた時に感じた物なんかより、もっと激しいものだった。
「……あんたには人の心がないのか!?何で、何で数ヶ月付き合った男をいとも簡単に殺せるんだ!?」
「だって、別にこいつ好きじゃないし。」
 長崎は事も無げに即答しやがった。そんな、そんな女だったなんて……。
確かに、井城は鼻持ちならない奴だった。僕自身も何度か「こいつバールで殴ったろか」とか思った。
 でも、それは思うだけで行動に移すほどではなかった。
 それなのに、それなのに、しかも彼女という立場にあるこの長崎が、なんでこうも簡単に
殺せてしまうんだ?
「石野、冷静になれ。」
 後ろから鹿島が僕の肩を抑える。
「でも……!!」
 お前は怒りを感じないのかよ、と僕は問いたい。何でそんなに冷静でいられるんだよ!?
「石野、これでいいんだ。よくはないけど。」
 林は僕に静かにこう言った。でも、僕は収まらない。何でいいんだよ!?
「これではっきりしたから。これで……。」
 林は一歩前に出て、マグナム銃を長崎に向ける。
「これでここにいる『長崎麻衣』が、あの教室で笑っていた長崎さんじゃなくて、『生体兵器』
 長崎麻衣だとはっきりしたから!」
 林の言葉に、長崎はニヤリと笑う。
 時計の針は七時四十五分を指していた。

「喰らえ!!」
 林のマグナムから繰り出された銀色の弾丸が、真っ直ぐ長崎の方へ飛翔する。
それを長崎はジャンプし、余裕で回避した。
銀の弾丸シルバーブレットを使っていても、当たらなければ同じ。」
 小馬鹿にしたように長崎は言うと、林に肉薄した。
「うわっ!!」
 すんでで林がそれを避ける。そこに鹿島が一発撃つが、またも回避される。
すごい運動性能だ。
「ボーっとしてないで、石野も撃て!!」
 そうだった……。僕も鞄から銃を出した。
 平凡な高校生の鞄から覗いた非日常の鉄の塊。けれど僕は躊躇いなくこれを手にした。
今は、今は迷ってなんていられない!
 僕が銃を手にしたのを見ると、長崎は今度は僕のほうに腕を振り上げ突進してきた。
爪が普段の五倍以上の長さになっている。切っ先が蛍光灯の光を受けて不気味に輝く。
「くっ!!」
 それに向かって僕は引き金を引いた。捕らえた、と思ったが避けられた。
「当たらないね!!」
「わふっ!?」
 長崎の爪の一撃を何とか僕は屈んでかわす。
 横から林がもう一発撃つ。長崎はそれを避け、僕の前から離れる。
 ふー、よかった……なんて言ってる場合じゃない。彼女を倒さないとよかったなんて言えないのだ。
「くっ!鬱陶しい蠅だね!!」
 害は加えられないがしつこい、そういうことが言いたいのか。
「相手は苛々してきてる。攻め時だ!」
 そう言って鹿島が二発目を撃つ。それを長崎は案の定かわす。
が、今回はそこへ絶妙のタイミングで林の弾が飛んだ。
「ギャッ!!」
 マグナム弾の威力で長崎の体は後ろに飛び、壁にぶつかった。
「やっ……たのか?」
「さあ……?」
 鹿島と林が顔を見合わせた。
「確認しよう。」
「おい、危ないって!」
 鹿島の静止も聞かず、林は長崎の倒れている方へ歩き出した。
「えーと……死んでるかな?」
 林がうつ伏せに倒れている長崎の体を表がえしたその時……。
『お前が死ね!!』
 その言葉と共に長崎が人間では考えられないような立ち上がり方をし、それに怯んだ林を
以上に膨れ上がり、赤黒く変色した右腕で吹き飛ばした。
「ぐわっ!!?」
 信じられない力で突き飛ばされた林は五メートルほど床を滑って動かなくなる。
「林!!」
 慌てて鹿島が駆け寄った。僕もそちらへ走る。
『次は貴様らの番だ。』
 そう言った生体兵器は、既に長崎麻衣の形を取っていなかった。
あの時と、巽辰子の時と同じだ。
体中の筋肉が異常に発達している。特に両下腕部の発達が顕著でゴリラのように手を床につけていた。
そして、唯一残った長崎麻衣の部位であるその顔を歪ませ、血よりも紅い目でこちらを睨んでいる――
これが彼女の本性なんだろうか?
本番おたのしみはこれからだ。』
 低い声でそう言うと長崎麻衣は僕らの方へ一歩踏み出してきた。
 時刻は八時になる所だった。

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