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第十六話 僕らとツインタワーの秋C



「やっと12階か……。」
 深井がそう溜息をついて時計を見る。19:42と表示されていた。
 6階以降は早々トラブルもなく、またこの十二階よりも上のフロアへ進めるこの階段の前へも順調にこれた。
「こっから先、爆弾つかぇるかなぁ?」
 物騒な事を小黒は呟く。欲求不満なのかもしれない。もしそうなら、この任務が終わった時
どうやってその爆発欲を解消するつもりなんだろうか?
「使う事になりそうだ。」
 そう言って鐘本が階段の方に厳しい視線を向けた。
 つられて深井が見上げる。だが、誰もいない。
「誰もいないじゃないか。」
「いや、この上から気配がする。」
「行こう、敵はあたしらを待ってるのかも。」
 そう言って塩見が先にたとうとした。深井は慌ててそれを制す。
「もう少し慎重に行こう。」
「いや、行くべきだ。」
 深井の言葉に鐘本が口を挟む。
「ここにいても仕方がない、動くべきだ。」
「『こけつにいらずんば、こじをえず』って、ぃぅしね。」
 小黒も鐘本の意見に添うた。ただ、彼女の言っているのが『虎穴に入らずんば、虎児を得ず』の
事だと気付くのに数秒かかったが。
「ここまで来ちゃ引き下がれないじゃない。」
 それはそうだ。それはそうだが、もっと慎重になるべきではないか?深井はそう考える。
こういう状況だからこそ、ここで一度冷静になるべきなのだ。
 とは言え、組んでいるチームメイトが皆そう言うのなら、そちらを優先するのが常である。
仕方なく深井は折れた。
「じゃ、行こうか。」
 そう言って鐘本は先頭に立ち階段を上り始める。
深井がその後ろに仕方なさそうに続き、その後ろに塩見、殿に小黒と一列になった。

「いまはい、21階。」
   どれくらいの間階段を上っていただろうか?
深井は鐘本が回数をカウントする声を聞きながら腕時計を覗き込む。
19時46分。相当時間が経った様に感じたが、それほどではなかった。
「これで二十二階……あ!」
 突然鐘本が声を上げた。見るとそこには重苦しい鉄の扉があった。
「この向こうから僕を呼ぶ声がする。」
 そう言って鐘本が扉に手をかけようとした、その時……。
「ちょいなー」
 突然後ろから間の抜けた掛け声と共に飛んでくる殺戮兵器、と言うか手榴弾。
投げたのは言うまでもない、『天然爆弾少女』小黒である。
『……っっっっっ!!?』
 声にならない悲鳴を上げて、鐘本と深井が後ろに跳び退り体を伏せた。
 ドゴーン。
「ゴホッゲホッ!!」
 立ち上る爆発音と土煙。今まで割りと隠密行動をしてきたと言うのに台無しである。
「小黒ーッッ!!!」
 流石に冷静で通っている深井も怒りが頂点に達した。それでなくても今日は苛々していたが。
「だってぇ……。」
 怒鳴りつけられて小黒が目にジワッと涙を浮かべる。
「う……。」
 涙目で見られ、怒る気が失せていくのを深井は感じた。
かの石野純二のような女たらしでなくとも、女の涙と言うのは男にとって辛い物なのだ。
『ふふふ、中々お元気のようですね……。』
 突然土煙の向こうから声がした。
「こ、この声は……!」
 鐘本はそう呟くと、起き上がって吹き飛んだドアの向こうへ走る。3人は慌ててそれを追った。
 土煙を抜けると、そこは四角い闘技場のような空間だった。
入った所の対岸の壁に出口があり、その前に一体の異形が立っていた。
 グロテクスな黒光りする体で顔には紅い三つの目。右腕の肘から下のみ継ぎ足したような機械
になっていた。
『ふふ、お久しぶりですね千鶴の皆さん。』
「牧撫子。お前が僕を呼んでいたのか?」
 鐘本が睨みつけるような目をしてそう言うと、異形は大きく肯いた。
『ご明察。あなた方に敗れてから、私は強化手術を施されさらに強くなった。』
 そう言って牧は右腕の機械化された部分を撫でた。
「他力本願な強化だな。」
 と鐘本は鼻で笑う。それで牧の口調が変わった。
『例えそうでも、我々は強くならなくてはならない。人間には分からないだろう、この兵器の
 強くならなくてはいけないと言う宿命を……!』
 牧の顔には目が三つあるだけなので、表情の変化は読み取れないが、人間にしてみれば相当の怒りの感情を浮かべているのだろう。
『ここでは、このビルでは三体の生体兵器が開発され、一体の生体兵器が改良された。
 人間共がつまらない買い物や生活をしている上で、我々はそれを壊す為に創り出されたのだ!』
 牧はそう言い、両手を広げ天を仰いだ。
『お前達のような人間がいなければ、我々は生み出される事などなかった!
 お前達がタッキーオに逆らわなければ、我々は生み出されなかったのだ!!』
「御託はそれだけか?」
 そう言って鐘本はあの夜セフィロトから譲り受けたあの篭手を両手につけた。
「どんな理由があれ、戦士が戦場で敵に出会ったのならやる事は一つ――」
 右腕を前に出し、構えを取る。
篭手の手の甲を覆う部分に彫られた『Ag』の文字が、照明の明かりを受けて輝く。
「戦って、どちらが勝ちかどちらが正しいか決める、ただそれだけの事!!」
 そう叫び、鐘本は地を蹴り、牧に肉薄した。
 銀色に光る拳が生体兵器の腹に突き刺さる。
『ぐうぅぅ!!』
「まだまだっ!!」
 腹を押さえ交代する牧を鐘本は追い、一撃、さらに一撃と打撃を重ねる。
「しゃっあぁぁぁ!!」
 鐘本渾身のストレートが決まり、牧の体は後ろに吹き飛んだ。
「決まったか……?」
 駆け寄ってきた深井に鐘本は首を振る。
「分からん。」
『くっくっく……。』
 不気味な笑いと共に牧が立ち上がった。
「まだのようだ。」
 そう言うと再び鐘本は構えを取った。
『かかってくるのはいいですが、貴方自分の手を見たほうがいいんじゃあないですか?』
「……手だと?」
 そう言われて鐘本が両手の篭手を見た。
「……これは…!」
 するとそこには先の方がボロボロになった篭手があった。
『ふふふふ、我々の体が銀に弱いと調べた、そこまでは良かったんですがねぇ。』
 牧は不敵な笑いを浮かべて一歩こちらに近づいた。
『酸化還元反応をご存知でしょう。ほら、横桐教諭が説明しておられた。
 我々の体を酸としますと、銀は塩基。つまり、我々の体を破壊しようとするならば、
 その銀も劣化してしまう、そういう事です。まあ、もっともそれとこれでは全く次元の
 違う話なのですがね』
 そう言うと牧はまた一歩踏み出した。
『そちらは最強の戦士とも言うべき彼が、私を倒す力を失ってしまった。
 もうあなた方に勝ち目はありません。そこで……。』
 牧は機械となった右腕をこちらに向ける。
『死んでいただきます。一思いに私の最強のこの腕で……。』
 時計の針は八時を少し回った所だった。

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