×

[PR]この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。

第五話 僕は秋の日、校舎裏で……。



いつもの教室、いつもの自分。変わったことは特になし。
 強いてあげるなら、塩見憂と牧撫子が欠席なのと、昨日中ずっと尾行していたが堪え たのか、
九渡の顔色が少し悪い事ぐらいだ。
 どうしたのか聞いても、彼は「別に……。」と言って答えない。
 まあ気にする事でもないが。
 そして、そんなこんなで一日は過ぎていく………。

 3時5分。
 あと五分だ。あと五分でチャイムが鳴る。そうしたら授業は終わる。
 前では横桐先生が、モル濃度の何たるかを熱く、だがゆったりと語っている。
が、殆どの人が聞いていなかった。
 周りを見回しても、林は寝ているし黒部も寝ている。鹿島は退屈そうに教科書のまったく関係ないページをめくっている。
 そして僕はというと、ジッと聞いている振りをしていた。
時折ちらちら時計を見ながら、今日の夜何を観ようかなんて考えながら。

   3時9分。
 あと一分をきった。
 鹿島は筆箱にラインマーカーやシャーペンを戻し始める。
 林は残り一分を敏感に感じ取ったのか起き出し、頭を軽くニ、三回振っていた。
 黒部はまだ机に突っ伏している。
 横桐先生は、相変わらずのペースで授業をしている。残り一分に気付いていないみた いだ。
次の問題の解説に移ろうとしている。
「えー、では四番ですね……」
 そこで、キームコームとチャイムが鳴る。
 あーッ鳴っちゃった、と何故かとても悔しそうに横桐先生は顔をしかめた。
「では次の時間はこの問題からですね。ハイ、起立ッッ!!」
 その声に僕らは立ち上がる。黒部も、起きたのか初めから寝ていなかったのか立ち上が った。
もう、自分の席から離れているせっかちな奴もいる。
先生もピンと背筋を伸ばした。
「ハイ、礼!」
 直角に深々とお辞儀をする先生。それに律儀に答える者、僕のように少し頭を垂れる
だけの者、礼もせずそのまま立ち去ろうとする者もいた。
 その後、質問がある者は先生の下に駆け寄り、そうでない者は教室に急いだり、クラブに行ったりとばらばらに帰っていく。
 僕は鹿島の元に行き、二人で教室まで戻った。

 教室に戻ると、既に何人かの生徒がいた。その中には件の長崎麻衣の姿もある。
 彼女は僕と鹿島が入ってきたのを見て、近づいてきた。
「石野くぅん?」
「あ、何?」
 間抜けた返事を返してしまった。一瞬、昨日の尾行がばれたのかと思った。
「ちょっと、来てもらっていい?用があるんだけど?」
「ああ、いいけど……。」
 そう答えた僕の肩を、鹿島が後からグッと掴んだ。
「おい、クラブどうするんだよ?」
「すぐ終わると思うし、いいだろ!?」
 うんすぐ済むよ、と横から長崎さんも言う。
「じゃ、先行っといてくれ。」
 僕はそう言って、鞄を担ぐとまだ何か言っている鹿島を流して、長崎さんの後を
ついて行った。
 その後で鹿島が呟く。
「全く、女に弱いな……。」

「で、用って何?」
 歩きながら僕は、彼女の背中に話しかける。
「会わせたい人がいるの。」
 彼女はそう言っただけで口をつぐみ、あとは全く分からなかった。
何の用だろう、本当に見当がつかない。
 そんな事を思っているうちに、校舎の外まで出てしまった。
 それでも彼女は歩くのをやめず、ぐるっと回って校舎裏に出た。
 そこには一つの人影があった。女だ。
 全身黒ずくめで、肩まで届く髪も黒。
 その為か肌の色だけが異様に白く見えた。
 彼女は長崎さんと僕の姿を認めると
「まいちゃんだー、おーい!」
 と、妙にアニメちっくな声で叫んだ。

「誰?もしかして会わせたい人って……。」
 僕が長崎さんにこう尋ねると、彼女は
「うん、巽さん。」
 そう言われると、名前は聞いたことがあった。あのアニメ声も。
 僕はああいう作った様な声が嫌いだし、いい噂を聞かないので関わりたくなかった のだけれど。
 それを関われというのか、この長崎は!
 僕がそんな事を思っているのも知らず、長崎さんはこう言った。
「巽さんが石野くんに話したいことがあるんだって。」
 ねー、と言うようにうなずき会う二人。
 おい、やめてくれ。
 こっちは話すことなんてない。帰らせてくれ頼むから。
 しかも長崎さんもアニメ声っぽい感じになってる。
トーンは変わってないのだけれど、喋り方がそっくりだ。
 感染るのかアニメ声。恐るべしアニメ声………。
「石野くぅん」(アニメ声)
 ウルルッとした調子の声と共に、巽はこっちを見た。
 うわっ!白ッ!!ギリシアのパルテノン神殿みたいだ。
 僕がその事に怯んでいるのも構わず、彼女の唇は言葉を紡いだ。
 そして、その言葉は予期せぬものだった。
「わたしと、付き合って下さいぃ!」(アニメ声)

「全く、石野の奴……。」
 ぶつぶつ呟きながら鹿島弘樹は一人廊下を歩いていた。
 あいつは女好きではないが、異性に強く出られない所がある。
そのせいでトラブルに巻き込まれた事もあったのに、何故同じ轍を踏むのか、何事も合理的な
鹿島には理解できなかった。
 そんな事を考えていると、前から九渡が俯き加減で歩いてくるのが見えた。
「銀!」
 鹿島が声をかけると、彼は顔を上げた。
「何やってるんだ?」
 帰宅部の彼はとっくに帰ったと思っていた。
「長崎さんを見なかったか?」
「何か用でも?」
 鹿島は怪訝な顔でまず、そう聞いた。
「いや、今日も井城と二人で帰るのかと思ってな。」
 追跡する為だけに残っていたらしい。
 その努力が無駄に終わると知ったら、彼はどんな顔をするだろうと思いながら
「今日は別々らしいぞ。」
 と言った。
「何で知ってるんだ?」
 銀が不思議そうな顔で言う。
 そっちに疑問を感じるのか、と思いつつ鹿島は
「さっき、石野と出て行ったぞ。」
 と答えた。
 その瞬間、九渡の顔色が変わった。
「何処に!?何処に行った!?」
 すがりつくようにして聞いてくる。ものすごい勢いだ。
「さ、さあ………?」
 鹿島が勢いに気圧されつつも首をひねりながら答えると、九渡はありがとうと早口で 言うと、
鹿島を捨て置いて元自分が来た方向に走っていった。
 残された鹿島は
「何でそんなに慌ててるんだ?」と呟き、結局また一人クラブに向かった。

目次に戻る