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第八話 僕らの秋は波乱の様相を呈してきた



 二時間前……。
 黒部はこの公園でいつも手に携えている木刀を使い、素振りをしていた。
 この場所はその時間帯には殆ど人通りがないので、彼のように人知れず修練を積みたいものには
うってつけだった。
 そして今日の練習メニューを終え、自分が非常食用に植えたジャガイモ
(管理人注:公共の場所に勝手に植えてはいけません)の様子を見ながら小休止をとっていると
「あ、黒部きゅんや〜。」と舌足らずな声が聞こえてきた。
「小黒さん、か。」
 彼は振り返らず、声の主を当てた。と、言うか彼女の口調は特徴的なので、知り合っている人
ならば、外す方が難しい。
だが、本人にその自覚はないようだ。
「すごいな〜、何で分かったぁ?」
 黒部はこのボケた問いに答えず、背も向けたままだった。
 だが、彼女は話すのを辞めない。
「さすがだね〜、『魚捌き式抜刀術』の後継者だけあるわぁ〜。」
 その言葉で黒部の顔色が変わり、突然立ち上がって、振り向きざま彼女の鼻先に木刀を
突きつけた。
「その事、何処で調べた?」
 この事は最大の秘密にしていたはずである。
 自分が一子相伝の伝説の古剣術『魚捌き式抜刀術』の後継者である事は……。
「ぅちらは何でも、おみとおしよー。」
「うち『ら』?」
 敵は複数か、それならばこの小黒一人の口を封じても仕方ない、と彼は計算する。
逆に自分の立場が危うくなるやも知れない、とも。
だが、突きつけた木刀は下げなかった。ソースを知る必要が彼にはある。
何故ならば、この剣術は強力すぎる為世に出てはいけない物だと伝えられているからだ。
 彼の師はよく言ったものだ。
『剣を抜かなくなった時、この剣術は完成する』と。
「その『ら』について喋ってもらおうか?」
「ふぇ?」
「お前の背後の組織についてだ!!」
 黒部は声を荒げ、木刀を前に突き出す素振りをした。だが小黒は怯まない。
「そんなのいないよぉぅ。」
「嘘を吐くな!それなりの大きな組織の力がなくては『魚捌き式抜刀術』の名前を探り出す事すら
 適わない筈だ!」
「…うん、たいへんやったよぉ。古文書めくったりぃ。わたしはしてないけどぉ。」  
 これは……認めたという事だろうか……?えらくあっさり認められて、なんだかガクッと来た。
「でぇ、わたしらの事、ホントに知りたいぃ?」
「『知りたい』と言って、教えてくれるのか?」
 別に組織自体のことを知りたいわけではないが、そう答えた。
「んー、もうちょっと手間かかるぅ。」
 ちょっとついて来てくれるだけでいい、と彼女は言った。

 そして今――。
「……で、二時間も待たされた。」
 憔悴しきった顔で黒部は話し終える。
 肝心の剣術の部分は抜きにした。小黒に突っ込まれるかと思ったが、それはなく、
ただ彼女は微笑んでいるだけだった。
「痛いなー。」
「まあ色々とな。」
 その色々が剣術についてだとは、彼らは夢にも思わないだろう。
「で……。」
 鹿島が鐘本に向き直る。
「何処に連れて行く気だ、俺達を?」


 ベルのついたドアにカウンター。天井には大きなファンが回っている。
 飲食店のような内装だが、そういうわけではない。
 そんな建物の中に、僕はいた。
 ヘリで九渡に連れてこられて、「少し待っていろ」と言われ、もうどれ位たっただろう?
目の前のテレビはもう7時のお笑い番組を流している。
『――次に登場するのは勿論この人!今や人気ナンバーワン若手お笑い芸人と言って  
いいでしょう、梨川正一!!』
 ワーッと言う歓声。プシューっと無駄に噴き出すスチーム。
 赤い幕の張られた扉から、学ラン姿の梨川正一が姿を見せる。
 貼り付けたような笑顔を振りまくと、彼はお決まりのギャグを一発
『げっちゅう!!』
 ……笑えない。
だが客席からは、キャーという歓声まで聞こえる。
 僕は下積み時代からこの芸人を知っている。その頃からこのギャグはやっているが、全く
うけなかった。あまつさえブーイングまで聞こえたのだ。
 それが今や歓声である。世の流行なんて身勝手なもんだ。
『今日おれ、新ネタ披露します!!』
 ワーッとスタジオは沸くが、僕は過度の期待はかけない方がいいと思った。
『じゃあ……。』
 その言葉で観客が静かになる。一種異様な雰囲気だ。きっと一挙一投足を見逃すまいと息を
詰めているのだろう。僕はそれを足を組んでブラウン管の向こうから冷めた目で見ていた。
『……一+一=田、間違いじゃな…』
 プチ。
『……晩は、日本公共放送ニュースの、時間です。』
 つまらないのでニュースにかえた。適当だったのでニュースだ。
アナウンサーの穴田宏一が今日あった出来事を、独特の口調で読み上げだす。
 いや、つーかパクりだし。『げっちゅう』もそうだけど。

「ニュースとは感心だな。」
 と、後ろから不意に声がかかる。振り返ると一人の男がそこにいた。
確か、鏑木とか言う人だ。
「待たせたな、皆揃ったのでこちらに来てくれ。」
「皆?」
 誰だろうか?
「お前の友達連中だ。」
 鏑木はにこりともしないで言った。

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