第九話 僕らと千鶴とセフィロトの生きる秋



 長いテーブルに10人の人間が座っていた。
 僕――石野純二、鹿島弘樹、黒部北斗、林時緒が下座から並んで座り、林の隣から上手側へ
何故か鐘本尽、小黒智恵美、深井挑介、塩見憂。
それと向かい合うように鏑木と九渡が座っていた。
「まずは……。」
 鏑木が口を開く。
「何も知らずにこの席に座っている四人に状況を説明するとしよう。」
 四人――僕達の事だろう。と、言うかそれ以外ない。
「さて、何処から話すか……。」
 鏑木はそう呟くと話し始めた。

 世界には沢山の地下組織が存在する。
 我々はその内の一つと戦ってきた。
 奴らの名は「タッキーオ」
 イタリアを中心に活動してきたテロ集団だ。
 とても大型の組織でな、世界中に枝組織とも言うべき物が存在していた。
 戦いは数十年にも渡る激戦だった。
 だが遂に1999年、タッキーオを解散に追い込むことが出来たのだ。
 一つの枝を除いてな――。

「それは日本に本部を持つ、『メニアニマ』と呼ばれる組織よ。」
 鏑木の言葉を塩見が継ぐ。
「……それと俺たちに何の関係があるんだ?」
 林が尤もな事を聞く。僕もそれが疑問だった。
「焦っちゃダメよ。」
 塩見がチッチッチと指を振る。
「ここからが問題なんだから。」
 塩見が鏑木に目配せすると、彼は肯き再び話し始めた。

 我々は『メニアニマ』と戦う為に、ここに渡ってきた。
 『メニアニマ』自体は小さな組織だ。
 それにこの日本は大規模に戦うには平和すぎる。
 その上、我々の組織もこの東洋の島国では基盤がしっかりしていない。
 これらの理由から我々はスパイ作戦を敢行した。
 『メニアニマ』には『タッキーオ』の生き残りが大勢逃げ込んでいる。
 だが、『タッキーオ』を裏切り、母国に逃げようと考えた者達もいた。
 その一団の中に、一人の日本人がいた。
 彼は技術者で、『タッキーオ』の大量破壊兵器の開発チームの一人だった。
 裏切った折にその兵器の起動に必要な物を持ち逃げしたらしい。
 彼自身は、技術を生かし既に就職している。
 社会的に地位もあり、彼を暗殺しそれを手に入れるのは困難だ。
 だから『メニアニマ』は彼の息子に張り付けば、情報を手に入れる事も可能かと考えたのだ。
 そして、我々もな。

「その息子に張り付いていたのが……」
「俺だ。」
 九渡が自分を指差す。

 その技術者の男の名字は『井城』
 つまり、君らが後をつけまわしていた『井城凛』がその息子と言うわけだ。

「って事は……。」
「俺たちが呼ばれたのは……」
 鏑木は肯いた。
「そうだ、その為だ。このままだと君達の身に危険が及ぶ。だからこうして保護した。」
「何で身に危険が及ぶん…ですか?」
 鹿島が律儀に敬語で聞いた。
「それは、お前達がある組織の工作員と間違われたからだ。」
「ある組織?」
 まだ何かあるのか、と言いたげに鹿島は鸚鵡返しに聞く。
「それに関しては、わたしに説明させてもらえる?」
 塩見が間に割って入った。
 わたしらがここにいる理由も説明しないといけないだろうしね、と切り出した。

 鏑木さんや九渡君の組織と、直接のわたしや深井君は関係はないの。
 本当はこうやって袖すり合わす仲でもないしね、あちらさんとは。
 わたしらの組織の名は『千鶴サウザンズカーク
 鏑木さんとこはローマカトリック教会お抱えの武装集団『セフィロト』

「ローマカトリック教会!!?」
 とんでもない話だ。しかも武装集団て……。
 九渡の方をちらりと見ると、彼は何か?と言う風に首をかしげた。
「続けていい?」
「あ、ああ……。」

 で、わたしら『千鶴』はね前々から『メニアニマ』とは敵対関係にあったワケ。
 だから、自分とこが持ってる『サウザンズ学園』に井城を入学するように誘導したの。

  「持ってる!?」
 衝撃の事実だ。まさか自分達の学校のバックに武装集団がいるなんて。
「え?知らなかった?」
「普通は知らない。」
 何を当たり前な、見たいな口調で言う塩見に深井が冷静に突っ込んだ。

 ま、そういう事で表向きはバレてないから割と楽だったわ。
 そして、見張りをつけた。うちのウリの一つである『チームハイティーン』よ。
 それと君らが間違えられたと言うわけ。

「って事は……。」
「深井君達がそうよ。」
 僕が聞く前に塩見は答えた。
「じゃあ、塩見さんはそのリーダー?」
 と鹿島。代表者のように話す彼女がそうだと見当をつけたのだろう。
 だが答えは予想以上だった。
「違うわ。リーダーは深井君。わたしは組織の総帥。」
『え!?』
 えらく若い総帥もいたもんだ、と言うか……。
「な、何でまた……?」
「失礼ね!」
 気を悪くしたようだ。
 後を継いだのよ、と呟くように言った後はその事については何も言わなかった。

 で、ここからがこっちも予想外だった所。
 今年になって相手は井城とその息子を見張る為に、学園に生体兵器を潜り込ませて来たのよ。
 親組織の『タッキーオ』で開発された、人間サイズの生きた超兵器、それが生体兵器バイオウェポン
 こっちはそれに対抗する方法がなかったんだから、困ったものよ。
 鐘本君とかが頑張って対処してくれたけど、倒すまでは行かなかったわ。
 何せこの生体兵器ときたら、ある金属でしか致命傷を負わせられないんだから。
 その金属がなんなのかも分からないし。 
 で、そこに対処法を持ったセフィロトの存在を知ったから、まあ『敵の敵は味方』って事で
 協力する事にしたの。
 まあご挨拶で銃を突きつけられたときは焦ったけどね。

『突きつけられたの!?』
 林と僕が驚いた声を出す横で、黒部が冷静に鏑木に問う。
「女子高生相手に、あんたは何を……?」
「そんな事言われてもな……。」
 鏑木はバツ悪げに頭をかいた。
「ところで、その金属っていうのは……?」
 鹿島もまた冷静に塩見に聞いた。つーかお前ら驚けよ。銃だぞ銃!
「その事に関しては、私が説明しよう。」
 声と共に現れたのは白衣を着た長身の男だった。

 ……これ以上増えるのか人。
 と言うか、今何時だよ?ここ何処だよ?僕たちは今日のうちに帰れるんだろうか……。

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