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俺たちの過ぎ行く秋と、鹿ノ台富美の憂鬱[2]



 と言うわけで、その日の放課後、俺は陸上実戦部の練習場所である学校の裏山に行く事になった。
鹿島はアヒルと二人で聞きまわる事にしたらしく、俺に何故か「死ぬなよ」とか言っていた。
 もう、死ぬような事ないって……。


「え!?鹿ノ台!!?」
 バババババババババ……
「うん!そう!!最近変わった様子とかなかった!!?」
 キュンキュンキュンキュンキュン……
「最近……うわっ!!?危な!左、左!空木ぃ!!」
 ズガーン
「わっぷ!?そう!最近どう!?」
 ドォーン……
「っく!!小黒め、腕を上げたな!」
 戦闘訓練中の川上さんは殆ど話を聞いてくれない。
日に焼けた小柄な体を地面に伏せ、ライフルを構えて前方を見ている。
この姿を見て、誰が学年でも指折りの秀才と思うだろう。
「石野君、石野君!」
 名前を呼ばれて左を見ると、『モルグ』と書かれた看板が掛けられたテントの中から、
同じクラスの空木法果が手招きしていた。
「危ないから!話はこっちで聞くわ!」
 その時、鼻先を銃弾が掠めた。
「おい、素人は下がってろ!!」
 ……川上さん、普段はあんなに落ち着いてるのに、キャラが……キャラが違う。
 俺は空木さんの言葉に甘える事にした。

 モルグテント(後で聞いたのだが、モルグは死体置き場という意味らしい)の中には、
2〜3人のユニフォーム――と言うか野戦服に身を包んだ生徒が、だらだらと座っていた。
「ごめんね、シナちゃん訓練中はキャラがえらく変わるから。」
 言いながら空木さんは薬缶から水をいれてくれる。シナちゃんは川上さんの事だろう。
「いやあ、練習中に入って来た、こっちも悪かったよ。」
 鹿島がいたら、横から「女たらしめ」と囁いてきそうだな、と思いながら俺は言った。
って言うか、これは普通の礼儀だろ!
「で、何だっけ?」
 差し出された紙コップを受け取り、一口飲んで俺は答える。
「鹿ノ台さんの事なんだけど、最近元気がないとかそういう様子って……。」
「うーん、しんどそうなのはいつもの事だしねぇ……。フーミン、最近クラブに顔出してないし。」
「え?」
「サボりがちなのよ。ほら、今日も来てない。」
 そう言えば。クラブに聞き込みに行ったらいるかもしれない、なんて事は考えてなかったな……。
「で、シナちゃんの機嫌が悪くなるのよ。」
「なるほど……。」
 川上さんは物凄く真面目だ。そして、周りにもそれを求める。
「サボって何やってるんだろね、ホント……。」
 彼女は鹿ノ台さんと川上さんの間で、板挟みなのかもしれない。女の友情って恐しいもんだなぁ……。
 俺は彼女に礼を言って、テントを出た。


 その頃鹿島と家鴨小路は、学校の敷地の外にある多目的グランド通称『タンチョウコート』に来ていた。
 北半分と南半分をフェンスで分けたこのグランドの南半分では今、セパタクロー部が
練習に汗を流していた。
「林!」
 鹿島は、グランドの端でストレッチに励む林時緒の名を呼んだ。
「おう、鹿島!それにアッヒーも!どうした?」
「実はな……」
 鹿島はこれまでの経緯を、手短に話す。
「へー、鹿ノ台さんが……。いつもしんどそうだけどなあ……。」
 林は首をそう言って捻った。どうやら彼にも心当たりはないらしい。
(クラスみんなに当たって行けば、何か情報が得られるかと思ったが、甘かったか……。)
 ありがとう邪魔をした、と鹿島が言おうとした時、林の背後から一人の男子生徒が顔を出す。
「鹿ノ台さんと言えば、誰か男と帰ってたのを先輩が見たらしいよ。」
「え?男!?」
 うん、とその男子生徒――1年4組の八宮海人は頷く。
「その先輩、お前らが一学期にやったライブ見てて、それで鹿ノ台さんの顔覚えてたらしいけど、
――ほら、お前ンとこ女子一人で目立つし――男の方は分からないって。」
 男がらみか、と鹿島は呟く。
 ありがとう参考になった、と鹿島は言ってそこを離れようとした。
「鹿島!」
 その時、林が鹿島の背中に呼びかけた。
「またヤバそうなら、力になるからいつでも呼んでくれ!」
「ありがとう、頼りにしてるぞ切込み隊長!」
 鹿島はそう叫び返した。

  
まゃ>とりあえずぁたしは嫌い
しろがね>あいつを好きなヤツなんているか?
まゃ>ハハ
まゃ>でも、あいつが好きな人ならいるらしい
しろがね>それは?
まゃ>ふーみんにメール来たって
しろがね>鹿ノ台さん?
まゃ>そぅ
しろがね>最近しんどそうなのは、そのPTSD?
まゃ>事後じゃなくて、今
しろがね>は?
まゃ>付き合ってるみたぃ
しろがね>そりゃまts


「何だ、塩見か。」
 サウザンズ学園内で、最も進んだ設備を持つ校舎『白井館』でパソコンに向かっていた九渡は、
後ろを見ずに現れた少女の名を当てた。
「さっすがスパイ。よく分かったね。」
「驚かすな。変な投稿になったじゃないか。」
 塩見は九渡の隣の空いた椅子を引き出すと、そこに座った。
「で、誰とチャットしてるの?」
 九渡は無言で、彼の座っている机の三つ隣の机を指した。
そこには、長い茶髪のギャル風の少女が座っていた。
「あら、麻耶ちゃん。」
 同じクラスの中井麻耶の姿を見て、パソコン扱えたんだ、と塩見は感心したように呟いた。
「人を見かけで判断してはいけない、と言う事のいい例だ。ああ見えて、割とお嬢様だし、
成績もいいようだ。」
「それは知ってたけど、パソコンってのはやっぱり意外。」


まゃ>憂©と話すの?
しろがね>いや、もう少し聞かせて欲しい

「って言うか普通に話したら?」
 声の届く距離にいるのにどうしてそうなるのか、塩見には理解できなかった。
「いや、話すと音が漏れるだろ?こっちの方が安全だ。」
「でも、あたしもう内容覗いてるんだけど……。」
「それは大丈夫だ。」
 画面から目を離し、塩見の方を向いて九渡は言った。
「君は味方に引き込める。」
 味方、と聞いて塩見の表情が変わる。
「また何かの悪巧みに協力させる気?」
「こないだ協力を求めてきたのはそっちだろ。」
 先のツインタワー戦で、九渡の所属する『セフィロト』は、塩見憂の有する戦闘集団『千鶴サウザンズ・カーク
の要請で、共闘したのである。
「じゃあ、その貸しを返す意味で、協力するわ。」
 えらく安いな、と九渡は尤もな事を思った。
「で、鹿ノ台さんが付き合ってるのは?」
 画面に表示されている情報から、大方の事は読み取ったのだろう、塩見憂はいきなりそう尋ねた。
「じきに分かる。」
 その時、ぷにゅっと言う音がパソコンのスピーカーからした。
新着メッセージが来た事を知らせる物だ。

まゃ>ガノンの話は凹むからもうなし

「……じゃあ、鹿ノ台さんと付き合ってるのは……」
「そう、宮城谷だ。」


 翌日、教室で三つの情報が一つに繋がった。
曰く、
『鹿ノ台富美は、宮城谷均のメールに屈し、クラブをサボって一緒に帰らされている。
 その心労で、体調が悪い。』

 敵は、はっきりしたようだ。

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