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  一 それじゃあ、全裸になりなさい その3



「で、あんた何なワケ?」
 全裸の女は腕を組み、パイプ椅子に座らされた優歌を見下ろして鼻を鳴らす。
 左隣からは鍵を閉めたロングヘアが、何が楽しいのかにこにこしながら、右隣からはホームズコスの少年がじろじろと、優歌を見つめている。
 室内にいたもう一人、パソコンに向かっていた男子はこちらに背を向けて、一人黙々と作業を続けているようだった。
「迷子? 覗き? スパイ? それとも、あたしのファンだったりして?」
「それはないわね」
「それはないね」
「それはないな」
 全裸女の言葉に、両側とパソコンから総ツッコミが入る。
「何よー! 可能性の話をしたんじゃない!」
「ありえないことは可能性って言わなくてよ?」
 ロングヘア女子の言葉に、全裸女はぶー、と口を尖らせる。
「見学よね?」
 そう問われて、優歌はうなずいた。
「一年C組出席番号二番、伊東優歌さん。部員募集のプリントを見て、このクラブを訪ねてきた。そんなところかな?」
 ホームズコスに言い当てられ、優歌は目を丸くする。
「な、なんで……」
「簡単な推理だよ」
 ちっちっち、と言いながら人差し指を振った。
「さっき野川先生からメールがきたのよ」
 ロングヘアが口を挟む。
「推理じゃないじゃないですか!」
「……悲しい事件だったね」
どんなまとめ方だ。目を伏せるホームズコスを優歌はじっとりと睨んだ。
「とにかく、自己紹介しましょう」
 ロングヘアはぽんと一つ手を打って続ける。
「わたしは二年の真倉笑実利。エミリ先輩と呼んでくれると嬉しいわ。元は文芸部で、童話作家志望なの」
 さっきから見ている限り、優歌は思う、この先輩が一番話が通じそうだ。童話作家志望というのも、彼女のやわらかい雰囲気にはぴったりに思えた。確かに鍵を閉めた瞬間の笑顔は空恐ろしいものがあったが、ここは他がひどすぎる。
 エミリに目配せされ、全裸女が口を開く。
「七条露子。……二年生、元美術部。この裸はボディペイントの為で、別に痴女とか変態ってワケじゃないからね」
 ならボディペイントなんてやめればいいのに、と優歌は思う。
というか、何よりとっとと服を着て欲しかった。男の子もいるのに、と左隣のホームズコスの顔を窺う。
「ボクは戸川あゆみ。探偵さ」
 どこぞの長寿探偵漫画の主人公のようなセリフを吐いた。
「元文芸部って事になってるけど、本職は学園探偵部だよ。何せボクは女子高生探偵だからね」
「え? 女子?」
「そうだよ」
 言ってあゆみはコートを開く。現れたのは、学校指定の女子用ブレザーであった。リボンタイの色から察するに、彼女も二年生らしい。
 いわゆるボク少女というヤツか、初めて見た。優歌は珍妙な生物を見つけた時のように、あゆみの顔をまじまじと見た。
「そら見ろ。誤解を招いている」
 言いながらパソコンに向かっていた男子が、席を立ってこちらへやってきた。
 やや神経質そうだが、端正な顔立ちをしている。割とまともそうだ。色白で文学少年のような雰囲気に、優歌は少しどきりともする。
「いつも言っているだろう、ややこしいからやめろと。大体リアルのボクっ娘なんて全く萌えん。むしろ害悪だ。アルル・ナジャに詫びながら、どこか俺の目の届かない所でひからびていけばいいのに」
「ひ、ひから……!?」
 前言撤回。一番やばいのは全裸でも探偵気取りでもなく、この人かもしれない。
「二年の神崎イヅルだ。見ての通り元パソコン研究会。主にゲームをしたり、ゲームを作ったりしている。最近は自由創作部のウェブページ製作が主たる活動だ」
 優歌の思いをよそに、神崎は饒舌に自己紹介した。
「あだ名はデッちゃんよ。イヅルって山二つ書く『出』っていう字だから」
「黙るがいい。そして、その醜悪なものをとっととしまえ」
 無遠慮に露子に視線をやり、神崎は吐き捨てた。
「ちょ、そんなはっきり見て……!」
 見ている優歌の方が、何故か照れくさくなった。もっとも、当の露子は平気そうだが。
「こんな老廃物と血肉の詰まった、迷彩柄に赤なんてグロテスクな色彩の、毛が生えた風船を見て、誰が劣情するか」
 ひどい言いようだ。相手が恥じらいのない全裸だからって、一応女の子なのに。
「ああ、こいつ二次元でないと勃たないから」
「たた……え? あ……!?」
 勃たない、の意味が分かって、優歌は頬を染める。
「アニメとかゲームとかのキャラでないと発情しないの」
 発情とはこちらもとんだ言い草である。
「つまり、こうしても……」
 露子は神崎の背後に回り、抱きつこうとする。しかし、彼はそれを振り払い、身をよじって避けた。
「汚いだろ! 色が移ったらどうする!」
 露子は悲しげな表情で彼の顔を見つめ、とぼとぼと元の立ち位置に戻る。
「ね……?」
「な、涙目じゃないですか」
 やらなきゃいいのに。さすがに可哀想になってきた。
「ともかく、これからよろしくね、伊東さん」
 凹んだ露子はあゆみに任せ、にっこりとエミリは笑った。
「ま、待ってください! わたし入るだなんて言ってません!」
 こんな変人だらけの人外魔境、好き好んで入りたいと思えない。
「けれど、入部しにきたんでしょ?」
「見学ですってば」
 傍では、全裸女がホームズコスに慰められていた。
「あたしの何がいけないのよー!」
「ボクの推理が正しければ、全裸なところかな」
「そんな! 全否定じゃない!」
 入部したとしてもやっていく自信はない。帰ろう。ふらふらと、優歌は席を立つ。
「待って」
「いや、もう無理です……」
「こんなものを用意したのだけれど?」
 振り返ると、エミリが一枚の紙を手にしていた。上部に「入部届」、その下に「自由創作部」「伊東優歌」と書かれている。
「え、何ですかそれ? 書いた覚えないんですけど……」
「それはそうね。野川先生から連絡を受けた時、わたしが書いたもの」
「文書偽造だね!」
「あら、親切心からの行動よ」
「親切心なら仕方ないな」
 神崎も横でうなずいている。
「いや、偽造ですから! 無効ですからそんなの!」
「あら、こんなに喜んでもらえるなんて」
「これのどこが喜んでるんですか!」
 この人も大概性質が悪い。一瞬でも気を許した自分を恥じた。
「後は部長の判をもらえばおしまいね」
 あなたの人生が、と続きそうな気がして、優歌は血の気を失う。
「待ってください! ちょっと!」
 それにしても部長!? まだ魔物がこの部屋に隠れているというのか。優歌は思わず周りを見回した。
「はい、部長さん。判子お願いね」
「オッケー」
 言いながら露子はどこからともなく印鑑を取り出し、差し出された紙に捺印した。
「部長あんたかよ!」
 よりにもよって全裸とは。思わず長幼の序を忘れて乱暴なツッコミが口をついて出る。
「これで晴れて伊東さんもわたし達の仲間ね」
「今後ともよろしく……」
「よろしくされたくないです!」
 入学早々、こんなカオス空間に閉じ込められるなんて。そう言えばおとめ座は今日最下位だったな、と朝の情報番組を思い出した。



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